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鎌田 實さんがアドバイスする「ちょうどいい孤独」。個立有縁でいこう

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ゆうゆう編集部

人生を輝かせるのは日々の小さな自己決定

「それにね、孤独には魅力がいっぱいあるんですよ」

コロナ禍になってからは「ソロ活」という言葉が流行するなど、ひとりを楽しむ人も増えているという。

「孤独というより、『ひとり時間』くらいにとらえるといいかもしれません。ひとりで映画を観る、ひとりで美術館に行く、ひとりで旅行する……。その中で自主性は確実に高まっていきます。たとえば映画を観るとき、友達と2人なら相手の好みの映画に合わせようとしますが、ひとりなら『私はどの映画が観たいんだろう』と考えます。小さいけれど自己決定です。そんな積み重ねの先に、自分の人生を自分で選択する力がついてくるんです。

ロシアの文豪トルストイは『孤独なとき、人は真の自分自身を感じる』と言いました。60代になっても70代になっても、気づいていない自分っていうのがいるんじゃないかな?」

孤独の中で自分を発見すれば、さまざまな副産物も生まれてくる。

「人に染まらないユニークな発想が生まれます。自分の価値にも気づくし自己肯定感も高くなる。孤独を知ることで、人への感謝や愛情も深くなっていくと思います。いいことがいっぱいあるんです」

一方で、望まない孤独=悪い孤独への注意は必要だ。ロンドン大学が発表しているデータでは、認知症発症を増やす要因のうち「社会参加の乏しさ」が41%、「対人接触の乏しさ」が57%、「孤独感」が58%。米国のブリガムヤング大学の研究では、社会的つながりの少なさは短命のリスクが高く、肥満の2倍に上り、ヘビースモーカーに匹敵するという。

「コロナ禍では否応なく『ひとり』でいることが求められました。追い込まれて孤独に陥ると寿命を縮めることになりかねません。自ら孤独を選び取り、孤独を楽しむことが大事です」

孤立無援ではなく 「個立有縁(こりつゆうえん)」でいこう

誰もが理想的な孤独を手に入れられるわけではないが、「ちょうどいい孤独」は得られるのだと鎌田さんは考える。ポイントは距離感だ。

「ヤマアラシのジレンマってご存じですか? ヤマアラシは寒いときにかたまって暖を取る習性があるんですが、体に針があるので近づきすぎるとチクチクするし、離れると寒い。だからお互いの体温を感じつつ、針が刺さらない距離を取ることが大切なのです。

私たちもそう。相手の領域に入り込みすぎず、『チクチクした』と思ったら離れ、また距離を詰める。自分の針にも気をつけながら。そうやってゆるく人とつながることで、自分にとっての『ちょうどいい孤独』がわかります」

鎌田さんには「ちょうどいい孤独」を楽しんだ2人の先達がいる。ひとりは2021年に亡くなった脚本家の橋田壽賀子さんだ。

「橋田さんと対談させていただいたとき、彼女は『友達なんていらないの』と言いました。『夫は早くに亡くなって子どももいない、私はいつ死んでもいいのよ』って。そう言いながら、月に一度かかりつけの病院に行き、ジムでトレーニングするんです。お医者さんやトレーナーさんと話すのが楽しいから。行きつけのイタリアンシェフとは仲よしで、取材で熱海の自宅を訪れたスタッフには食事を振る舞う。孤独を愛しながら人とつながる『個立有縁』の人でした」

もうひとりは、鎌田さんの育ての親である岩次郎さんだ。鎌田さんは1歳の頃に岩次郎さん夫妻の養子となった。母は若い頃から心臓を患っていたが、2人はたっぷりの愛情で育ててくれた。

「母が亡くなり、岩次郎さんは60代でひとり暮らしになりました。長野の病院に勤務していた僕が東京に帰ると、父は近くの焼き鳥屋さんに連れていってくれたんです。店主やお客さんが『カマさん久しぶり』『息子さんと一緒なの?』って声をかけてくれる。ああ、ゆるくつながる人がこんなにいたんだと安心しました。3匹の猫と暮らしながら、岩次郎さんは孤独を愛していました」

そんな岩次郎さんの姿は、いつしか鎌田さんのお手本になっていた。

「僕自身は妻も子もいて、病院では600人のチームで仕事をしていました。それでも毎朝4時半から7時半までの3時間、完全に孤独な時間をつくっていた。音楽を聴いたり、詩集を読んだり。妻さえ入ってきません。今でも朝はどっぷりひとりの時間。私だけの孤独を味わいます」

マチュア世代の女性には、「まず週1日でも『主婦の休業日』をつくろう」と鎌田さんは提案する。

「妻が『ソロ立ち』を宣言すれば、夫や子どもが家事をせざるをえなくなる。手抜き料理でも『今日はオレが作るよ』と夫が言うようになれば、夫婦関係は大きく前進します」

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