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【中野翠のCINEMAコラム】シリアスな問題も、笑いと涙でコーティング『すべてうまくいきますように』

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中野翠

ユニークな視点と粋な文章でまとめる名コラムニスト、中野翠さんが、おすすめする映画について語ります。今回は、人生を楽しんできた父に突然起こる出来事。誰にでも訪れる家族との別れを、涙とユーモアたっぷりに描く感動作。娘を演じるのは、フランスの国民的俳優として愛され続けるソフィー・マルソーです。

フランス・ベルギー合作の映画『すべてうまくいきますように』が面白い。笑いと涙。比較的裕福な一家の物語です。

物語の芯になっているのは、ソフィー・マルソー。そう、80年代初頭の青春映画『ラ・ブーム』のヒロインを演じ、日本でも大人気になった少女スター。その子が今や、なんと、 56歳とは! さすがに目尻にシワが寄るようになったものの、知的な顔立ちの熟年女性になっていた。

さて、ソフィー・マルソーが演じるのは小説家のエマニュエル。

ある日のこと。昔は実業家として活躍していた父が脳卒中で倒れたという報せ。病院に駆けつけると、父は思いのほか元気でホッとする。数日後には、別居していた彫刻家の母も見舞いにやって来た......。

というわけで久しぶりの一族再会ということになるのだが。なにぶんにも個性の強い人間ばかりで、おかしな騒動が展開されてゆく。

「尊厳死」というシリアスな問題も出て来たりして。はい、「笑いあり涙あり」という話です。

何しろ「おフランス」のインテリ家庭だから、服にしてもインテリアにしても、さりげなく品がいい。母親を演じたのは、昔、私が世界一のクール・ビューティと憧れていたシャーロット・ランプリング。顔も体も細身ゆえ、さすがに貧相な感じになってしまったけれど......。

父親はガンコに「安楽死」を望んでいる。さて、家族はそれをどう受けとめるのか。
と書くと、シリアスな映画と思われるかもしれないが、そんなふうではないんですよね。父親は自分の運命をさとり、「(今の私は) もう私じゃない」と言って涙を流すものの、やがて、その日が来ることを受け入れる……。

スクリーンを観ながら、私自身の父との別れ、母との別れを思い出さずにはいられなかった。
監督(脚本も)のフランソワ・オゾンは1967年生まれ。ちょうど親を送る世代になっていたのね。

● 監督・脚本/フランソワ・オゾン 出演/ソフィー・マルソー、アンドレ・デュソリエ、 ジェラルディーヌ・ペラス 他 2月3日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ 他 全国公開(フランス、ベルギー 配給/キノフィルムズ)
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